一人の寝床が薄寒く、ヘルモーズは目を覚ました
「バル…何をしてるんだ、まだ五時前だぞ」
「ヘル…君こそなんていう格好で出てくるんだ。部屋着くらいつけたらどうだい」
バルドルは空を見ていた
「お前はよく飽きずに空ばかり眺めるな」
「神の作り給うたこの世界で、唯一美しいのは空だからさ」
――お前こそ神の作りし最高傑作だと思うが
言いかけてヘルモーズは口をつぐんだ。
また気障だなんだといわれかねない。
憂うように空を見上げる瞳は何を思うのだろうか
「この国には、この空の色を表現できる言葉がない」
「サーモンピンク、オレンジ色…違うのか」
「…違う。この色はもっと繊細で微妙で、とにかくそんな言葉じゃダメなんだ」
そういって俯くバルドルの白い毛並みを、明るさを増した暁光が照らす
「身に纏った光さえ表現できないなんて…言葉は無力だね」
「言葉が全てじゃない。言葉で表現できないことこそ至高なんだ」
「…やはり君は気障だな」
「お前も変わらないだろう」
言の葉を紡ぎ、愛を謳い
偽りの感情と気づかずにいるのなら――
其れはなんと哀しい…愚かな喜劇だろう