雨の強い夜、肌寒い夜
ヘルモーズは眠れない
古傷が疼いて、眠れない
ブランデー入りのホットミルク、小難しい本、上質な毛布…
どれもヘルモーズの眠気を誘うには至らない
「何だいヘル、さみしくて眠れないのかい」
「………」
「まったく、いい年した大人が情けないな」
「うるせぇ…黙って胸貸しておけ」
「はいはい、甘えん坊のヘル坊や…ゆっくりお休み」
柔らかい毛並み、甘い匂い、かすかに響く心臓の音
其れはヘルモーズを夢心地にさせる
――ああ、まだ眠りたくない
抗えない眠気がヘルモーズを支配する
……スー、スー…
「…本当に寝ちゃった。可愛いなぁ、ヘルモーズは」
夜は更け行く
二匹の獣は寄り添い合い眠る
やがて雨も上がり、光の世界が訪れる
二匹の獣は陽光の中目を覚ます
「おはよう、ヘルモーズ」
「おはよう、バルドル」
一日の始まりは、温かい紅茶で迎えよう。