昔々あるところに、ナギ王国を300年間支配し続けた王族がありました。
その一族はとても美しい一族でした。
白い毛並みに、金色の尾、その瞳は美しい鴇色をしていたのです。
しかし、戦に敗れ、作物は実らず、とうとう王国は朽ち果てていきます。
そこへ侵略したのが隣国・ウミ王国。
『助けてやったことも忘れて、この恩知らずが!』
『親父の代の事だ。私には関係ない。さぁ、潔く散るがいい』
着の身着のまま逃げ出したのは王子・バルドル。
父の最期を見ることなく
母の断末魔を聞くことなく
妹の泣き叫ぶ声を聞くことなく
―――彼はただ逃げました
『王子、こちらへ』
どさくさに紛れてその手を引いたのは異国の騎士
ウミの国の兵士でした
黒銀の毛並みに赤い髪
そう、それは憎むべきもの――
しかし王子はその力強い手に為す術もなく
ただただ森を深くへ進んでいったのです。
「――父様…母様……リザ…」
朽ちた教会、天窓からのぞくのは、半分が欠けた月。
彼は祈ります。天国にいる、家族のために。
彼は懺悔します。遠き日の過ちを、心から。
司祭もいない、この教会で
彼は誰に対して…何に対して…いつまで…許しを乞い続けなければならないのでしょうか。